2014年10月9日木曜日

AR-V7(アンドロゲン受容体 Splice Variant 7)

大腸がんでは、全生存期間(OS)の予測は、血中循環腫瘍細胞(CTC)数に関連することが判ったという報告が最近ありましたが、(Journal of gastrointestinal and liver diseases誌2014年9月号)
前立腺がんでは、どうなんだろうと思いながら調べてみたところ、2014年AACR(米国腫瘍研究会) ではこのような発表がなされていました。 
既に見たことのある発表でしたが、内容が、遺伝子(RNAの変異)に関することで、一見用語が難しく思われたので、とりあえずスルーしていたのですが、よく読んでみると非常に重要なことが書かれていました。
http://www.nejm.jp/abstract/vol371.p1028

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)では血液中循環腫瘍細胞(CTC)におけるAR-V7(AR Splice Variant-7=アンドロゲン受容体スプライスバリアント 7) の発現が20倍程度まで上昇するという報告もなされていますが、AR-V7ではAR阻害薬が結合できる部位が欠けているため、理論的にはAR阻害薬は無効となると言われています。
そこで、実際にCRPC患者をエンザルタミドとアビラテロンの2群に分け、血液中循環腫瘍細胞(CTC)におけるAR-V7 の発現状況と、その効果(抵抗性)のほどを調べてみたという報告で、少し手間をかけて一覧表にまとめてみるとこのような結果となりました。



注目すべきは、エンザルタミド、アビラテロンとも、AR-V7の発現があれば、PSAの反応(降下)はゼロ、つまりほとんど効果がないということになります。
AR-V7の発現が陰性だった患者では、いずれも過半数(エンザルタミド53%、アビラテロン68%)で効果が見られましたが、陰性でも効果がないという場合もあるわけです。
無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)でも陽性と陰性でははっきり差がついているようです。
ならば、AR-V7の発現の有無が手軽に調べられれば、無駄な投与が減らせると思うのですが、一般的にはこのような検査をやっている事例というのは、まだ耳にしたことはありませんし、現時点ではこのような解説を、患者に対してしてくれる専門医にも、まだ出会ったことはありません。
AR-V7の遺伝子検査は、日本ではまだほとんど実用化されていないと思われます。
しかし、逆にこうしたアンドロゲンレセプターに異常がある場合には化学療法が奏功しやすいという報告もあるので、これらの薬が有効でないと判った場合には、すみやかにドセタキセル(タキソテール)やカボザンチニブ(カバジタキセル)などの抗がん剤を検討するべきでしょう。 

前立腺がんに関しては、個別医療ではまだまだ遅れを取っていると思われます。
これはまだ小規模試験なので、これでAR-V7の発現率がどのくらいかは(62例中では約3割)良くわからないと思いますが、AR-V7の発現があれば、新しいホルモン療法の薬であっても、あまり期待がもてないということはまず間違いはなさそうです。
少し乱暴な計算ですが、全CRPC患者のAR-V7の陰性率を約7割とみなすなら、エンザルタミドが有効なのは約5割、アビラテロンが有効なのは約6割ということになります。

一方を使用して効果があった場合でも、やがて耐性を生じ、薬が効かなくなった後に、もう片方の薬を使ってもまた新たな効果が望めれば良いのですが、多くの場合交叉耐性(1種類の薬剤に対して耐性を獲得すると同時に別の種類の薬剤に対する耐性も獲得することをいう。一般に化学構造や作用機序が類似している薬剤間で生じる。)が生じて、効果が期待できなくなるようです。
これら2種の新薬はどちらかを選ぶことはできても、両方の恩恵には授かることはほとんど期待できないということのようです。
しかし、従来のホルモン療法とドセタキセルを組み合わせるだけでも、大きな効果が出ていることもあるように、他のがんでも、複数を薬を組み合わせると、意外な効果があると言う場合もめずらしくないようなので、そのあたりの臨床試験の進展にも今後期待を寄せたいところです。

これらの薬の承認は欧米より約3年遅れましたが、このタイムラグはこれらの薬の使い方の研究にもそれだけの遅れが生じているということで、このままだといつまでも米国などの後追いが続くのでしょうね。