2017年9月15日金曜日

ホルモン療法が効かなくなる理由

「難治性前立腺がんの診断・治療の新たな標的「PSF」発見」 東京都健康長寿医療センター
ホルモン療法が効かなくなり、去勢抵抗性がん(CRPC)となると、アンドロゲン受容体の異常増加やAR-V7(悪玉変異体)の異常発現(20倍ぐらい)が見受けられる。その発生機序は不明なままだったが、このたび、その司令塔を担っているのがPSFとそのパートナー役であるNONOが、RNAの成熟に重要なタンパク質群を制御することにより、異常なホルモン受容体タンパク質の産生や悪玉変異体V7の出現に至ることを解明した。PSFやNONOが治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーとなることを発見した。また、動物モデルの実験では、PSFを抑制することでホルモン療法の効かない難治性の前立腺がんに対して治療効果を示すことも明らかにした。同研究グループでは、その機能を阻害する創薬候補の開発も進めている。
「これは、従来にない方面からの治療薬へのアプローチであり、前立腺がん治療のブレイクスルーとなる可能性が考えられる」と研究グループは述べている。
プレスリリースはこちらです。           http://www.tmghig.jp/J_TMIG/images/press/pdf/press20170912.pdf

上記の記事に関連してこのような発表もみつかりました。
科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に発表 2015年9月25日
東京大学大学院医学系研究科抗加齢医学講座の井上聡特任教授と同医学部附属病院老年病科の高山賢一助教らの研究グループは、アンドロゲンレセプターの活性化など、前立腺がんのホルモン療法に対して獲得される耐性について、その仕組みをエピゲノムの観点から世界で初めて明らかにしました。
エピゲノムが分からないと理解がすずらいので、その補足説明しておきます。
DNAの塩基配列情報全体のことをゲノムと称し、ヒストンというタンパクに巻きつく形で圧縮され、細胞の核内に収納されています。エピゲノムすなわちメチル化・アセチル化というヒストン修飾がDNAに加わることにより、表現型や遺伝子発現量を変化させ、DNAのどの遺伝子を働かせるかをコントロールしています。様々な外部の環境変化が細胞にシグナルとして伝わり、特定の酵素群がエピゲノムの作用に影響を及ぼします。ヒトの体は60兆個の細胞からなり、そのすべてが同じDNAをもっているのに、体の部位によって違う細胞になるのは、エピゲノムによりゲノムDNAの情報が的確にコントロールされているからです。
ホルモン療法に対する耐性を獲得した場合、マイクロRNA-29の発現は活性化されています。それによりDNA修飾を担うTET2遺伝子の発現を抑制することで、細胞内のエピゲノム状態を変化させ、前立腺癌関連遺伝子群が活性化されることを見出しました。このエピゲノム状態の変化が、癌関連遺伝子の発現やアンドロゲンレセプターを活性化し癌悪性化の鍵として関わっていることがわかりました。
井上特任教授は次のように説明をしています。
「前立腺癌細胞がホルモン療法に対する耐性を獲得したマウスに、マイクロRNAの働きを抑制する薬剤を投与すると、ホルモン療法の効き目が高まりました。実際に前立腺癌を患っている患者さんの細胞で発現されているマイクロRNAの量を分析したところ、マイクロRNAの発現が高いほど前立腺癌を再発しやすいこともわかりました。」
 

2017年8月13日日曜日

「がん光免疫療法」について

「がん光免疫療法」は、米国立衛生研究所主任研究員の小林久隆先生がリーダーとなって進めている、近年、注目を集めている次世代の治療法です。
がん細胞特有のタンパク質(抗原)と結びつく抗体にIR700という光感受性物質をくっつけて体内に注入、近赤外線を当てると、熱エネルギーの作用でがんの細胞膜に傷が付き、細胞内に水分が進入、がん細胞が膨れ上がり、僅か1~2分で細胞膜が破壊される(ナノ・ダイナマイト)。
細胞膜が破壊されたがん細胞は、免疫による攻撃対象となるので、転移がんに対しても有効だが(複数のがん巣を設けたラットに対し、一か所のみに近赤外線照射を行っても、すべてが治癒したとか)、がんの免疫抑制細胞に対しても同様のナノ・ダイナマイトをしかければ、さらに確実性が増す可能性も。
細胞膜の破壊という物理的な現象は、生物全般に共通していることなので、ラットの成果はほぼそのまま人間にも通用すると見込まれており、実際、2015年から米国で始まった頭頚部がんの臨床試験(現在は第Ⅱ層試験中)では、予想通りの好成績が出ているとか。
身体に毒を入れず、がん細胞だけを破壊するので、副作用もほとんどなく、この治療で免疫細胞を弱らせることもない。
がん特有のタンパク質(遺伝子)変異に対する抗体6~7種類と、がんの免疫抑制に関与する抗体2~3種類を特定できれば、大部分の固形がんの治療が可能になるという。
頭頚部がんに続いて、臨床試験の準備が進んでいるのは、大腸がん、すい臓がん、乳がん、悪性黒色腫など。

前立腺がんも動物(ラット)実験では、良い結果が出ているとか。
近年の新薬は怖ろしく高額であり、医療行政の破綻も危惧さえているが、これで歯止めのかかる可能性もあるという。この治療法は2011年に論文として発表され、
(この時には、このブログ「前立腺がんMEMO」でも紹介をさせていただきました

 http://higepapa.blogspot.jp/2011/11/blog-post.html )
翌年には、
オバマ前大統領も一般教書演説で取りあげています。
このライセンスを持つベンチャー企業には三木谷さん(楽天)が資金面での支援を行っており、できれば日米ほぼ同時の実用化を目指したいとか。
興味があれば、まずはこちらの動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=E3g1qVwNoZM
もう少し詳しく知りたい方にはこちらの本が良さそうです。

「がん光免疫療法の登場」(永山悦子著:2017/8/30出版)

2017年4月16日日曜日

不安が強いほど、不要な手術を選択する可能性が高い


「Journal of Urology」2017年2月号
 米ニューヨーク州立大学バッファロー校のHeather Orom氏らが、「限局性前立腺がん」と診断された男性1,531人を対象に、治療選択に関する行動を分析したところ、監視療法が妥当と思われる低リスク患者でも、がんと判明後の精神的な不安が強い患者ほど、外科手術を選択する確率が高いことが判明した。
Orom氏らは次のように述べている。
「精神的苦痛が、低リスクの前立腺癌患者に積極的治療を選択させる大きな誘因となっている。予後に関する明確な情報と不安への対処法を提供することで、治療に関する意志決定プロセスが改善され、過剰治療による生活の質の悪化を防ぐことが望まれる。外科手術や放射線療法などの積極的治療は、程度の差はあれ、勃起不全や尿失禁などなんらかの副作用を伴うもの。低リスクの前立腺がんであれば、監視療法の選択により、過剰治療を回避できる可能性がある。」

ASCO等による「前立腺癌患者の小線源療法に関する臨床ガイドライン」の改定について

米国臨床腫瘍学会(ASCO)とCancer Care Ontarioは、「前立腺癌患者の小線源療法に関する臨床ガイドライン」の改定に関し、共同発表を行った。
(Journal of Clinical Oncologyに2017年3月27日掲載)

http://www.asco.org/about-asco/press-center/news-releases/asco-and-cancer-care-ontario-update-guideline-radiation

今回のガイドライン更新では、専門家パネルによる、無作為比較試験5件(2011年から2016年12月まで)の検討が行われ、さまざまなリスクグループに対し、エビデンスに基づいた提唱が行われ、最も効果的な小線源療法があげられています。

(改定の要点をいくつか抜粋しておきます。)

・低リスクの前立腺がん患者の場合、低線量率小線源療法(LDR)単独、外照射単独、または手術が提唱されるべき。

・中・低リスクの前立腺がん患者の場合は、LDR単独 での対応が可能な場合もある。

・外照射 ( ホルモン療法(ADT)の有無を問わない)を選択する 中リスクの前立腺がん患者に対しては、LDR(低線量率小線源療法)またはHDR(高線量率小線源療法)よるブースト照射を追加する提案がなされても良い。

・「外照射 + ホルモン療法(ADT)」を受けている高リスクの前立腺がん患者に対しては、LDRまたはHDRによるブースト照射を提唱すべきである。

・患者に対しては、複数の分野からバランス良く、すべての治療選択肢(手術、EBRT、小線源療法、監視療法)を提示し、客観的な立場で相談にのる必要がある。

・小線源療法を選択する場合、患者は厳格な品質保証基準を提供してくれる医療施設に行くべきである。

少し補足しておきます(武内@ひげの父さん)
非再発率は、生物学的等価線量(BOD)が200~220Gyぐらいまでは、ほぼ照射線量に比例するので、外照射単独より小線源療法を併用したほうが良い成績がでると思われますが、複数の治療法を重ねると治療期間が延びることの他、副作用もやはり増大する可能性があるので、病状、年齢、健康状態などを総合的に考慮し、柔軟な判断をすべきと思われます。
外照射の技術の進歩も著しく、近年は同時ブーストが可能なSIB-IMRTなども使われるようになってきました。そのような場合には、小線源によるブーストの必要性は薄くなると思われます。

2017年2月17日金曜日

骨転移へのゾレドロン酸静注は12週間隔でよい

Andrew L. Himelstein氏(米Helen F. Graham Cancer Center & Research Institute)らは、通常4週間隔で用いられるゾレドロン酸(ゾメタ等)の静注の投与間隔を、12週まで伸ばす非劣性比較試験を行い、12週間隔でも効果は劣らないと報告した。(JAMA誌2017年1月3日号)

条件を満たした1822人の患者は911人ずつ、4週間隔群と12週間隔群に割り付けられた。
どちらの群の患者も、1日に500mgのカルシウムと400~800IUのビタミンDを服用するように指示を受けた。
主要評価項目は、2年間に、骨関連イベント(骨折、脊髄圧迫、骨の放射線治療、骨の手術)を経験した患者の割合とした。
割り付けから2年間に骨関連イベントを経験したのは、4週間隔群の260人(29.5%)と12週間隔群の253人(28.6%)だった。
 
       放射線治療   骨折    脊髄圧迫   骨手術
  4週間隔群    185人     62人    23人      22人
12週間隔群    163人     79人     30人      42人

 癌の種類別では、乳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫で、骨関連イベントの発生率に有意な差はなかった。疼痛スコア、ECOG PSスコア、顎骨壊死の発生率、腎機能障害の発生率でも、有意差は見られなかった。

 これらの結果から、骨転移がある癌患者に対するゾレドロン酸の12週間隔の投与は、標準的な4週間隔の投与と比較して、2年間の骨関連イベントを増やさないことが示され、治療の選択肢として許容できると結論している。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/jama/201701/549835.html




2016年12月14日水曜日

前立腺がんの治療に期待できる抗マラリア薬

Nature Communications 2016年12月14日
Cancer: Antimalarial agent shows potential for prostate cancer treatment

抗マラリア化合物が前立腺がんとその転移を阻害することがマウスの研究で明らかになった。この結果を報告する論文が掲載される。
前立腺がんの増殖は、当初は性ホルモンのアンドロゲンとその受容体に依存している。そしてアンドロゲン受容体を阻害する薬物が前立腺がん患者に対する有効な治療法であることが臨床試験で明らかになっている。しかし、前立腺がんが進行して、別の種類のアンドロゲン受容体を発現するようになって、この阻害薬に抵抗性を示すようになることがある。この種類のアンドロゲン受容体を阻害する薬物は存在していない。

今回、Zhengfang Yiの研究グループは、新たなアンドロゲン受容体阻害剤を探索する研究を行い、天然化合物のライブラリのスクリーニングを実施して、全ての種類のアンドロゲン受容体の強力な阻害剤としてアイラントンという抗マラリア薬を同定した。細胞での実験とマウスを用いた実験のいずれにおいても、アイラントンは腫瘍細胞の増殖と転移形成を阻害した。アイラントンは、アンドロゲン受容体の安定性に関与するタンパク質と相互作用し、腫瘍細胞に含まれるアンドロゲン受容体の分解を引き起こす。

2016年5月20日金曜日

ゾーフィゴ(ラジウム223)

2016年3月末に承認された放射性医薬品の「ゾーフィゴ」ですが、やっと(ほぼ2ヶ月後)薬価が決まったようです。これまで、前立腺がんの骨転移に対しては「ストロンチウム89」だけだった放射線医薬品ですが、さらに強力な選択肢が加わりました。
今後、徐々に医療現場で用いられていくに違いありません。
 ゾーフィゴ静注(塩化ラジウム223Ra:バイエル薬品)
 効能・効果:「骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん」
 薬価:1回分68万4930円(原価計算方式で算定)
70万円近い薬価をどう考えるか・・・感覚としては高いと言わざるを得ませんが、乳がんによる骨転移も対象となれば、薬価の見直しもあるはずです。患者負担だけで言えば、高額療養費による負担限度額があるので大助かりですが、この制度もいつまで続くやら(^^;;;
肺がんで用いられているもっと高価な薬「ニボルマブ」などは、国を滅ぼすのではという危惧の声も上がっています。

2016年3月24日木曜日

特筆すべき薬物療法(20年間で)

ここ20年ほどの間で(1990年代半ば以降で)特筆すべき薬物療法が3つある。

①グリベック(一般名イマチニブ)は、ある特定の白血病の原因になる異常な酵素を標的にする薬剤だ。この薬のおかげで米国ではこの白血病による死亡件数が半分以上減り、年間で1000件を下回るようになった。

②ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)は主に乳がんの治療に用いられる薬剤で、細胞の増殖を促す特定の受容体に作用する。乳がん患者のうち15%から20%はこの特定の受容体が多いがんだとされている。2014年の研究によると、乳がんの10年生存率は75%から84%に上昇した。この薬剤は年間で米国の女性を数千人規模で救っている。

③ヤーボイ(一般名イピリムマブ)は進行性黒色腫を攻撃する免疫細胞を増やす作用がある。がん専門医はこの効果を称賛している。進行性黒色腫の5年生存率はこの薬剤を用いなければ5%にも満たないが、この薬剤を投与すれば20%台になる。治療は不快感を伴うが、これで完治する患者もいる。

4番目の画期的な治療法になるかもしれないのは、同じく免疫療法に用いられるキートルーダ(一般名ペンブロリズマブ)かもしれない。この薬剤がもっと早くできておれば、皮膚がんが他の部位にも転移したカーター元大統領の治療に役立った可能性もある。

メルビン・コナー博士(エモリー大学 人類学部&神経科学・行動生物学プログラム教授)
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ) 2016年03月23日 寄稿文より抜粋

2016年2月4日木曜日

オラパリブがmCRPC患者の画期的治療薬指定(FDA)

経口PARP阻害剤オラパリブ[olaparib](Lynparza)は、2014年12月、BRCA1/2遺伝子変異陽性の進行卵巣がん患者に対して、すでにFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けているが、卵巣がん以外にも、同様の変異がある乳がんや前立腺がんなどにも有効であるというデータが、ここ1~2年の間に示されてきた。このたび、これを受けた形で、特定の(*注)転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者に対し、単剤療法としてFDA(米国食品医薬品局)による画期的治療薬(The Breakthrough Therapy Designation)に指定されたとのこと。
 (アストラゼネカのプレスリリース参照)
 http://www.astrazeneca.co.jp/media/pressrelease/Article/20160202

*注:タキサンベースの化学療法及び新規ホルモン製剤 (アビラテロン or エンザルタミド) による前治療を受けた、BRCA 1/2 または ATM 遺伝子変異を有するmCRPC患者

「画期的治療薬指定」とこれまでの「迅速・優先承認」との違いが分かりにくいが、承認への近道であることには間違いなさそうだ。Breakthroughの意味から連想する通り、著るしい改善が見込める変革的治療薬のための制度で、これまで治療薬が存在しなかった分野や、予備的結果から既存薬と比べて著しい進歩が認められる治療薬が候補になるという。
ただ、その指定方法が不透明という声もあるようだ。

ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー誌からオラパリブの有効性に関する記事をピックアップすると次の通り。

 卵巣癌         乳癌        膵臓癌       前立腺癌
 約3割(60/193人) 1割強(8/62人)  2割強(5/23人)  5割(4/8人)

これをみる限り、卵巣癌がもっとも効果的。
前立腺癌は5割だが、N値が少ないので統計上の根拠は薄い。
有害事象で最も多かったのは疲労感、心臓に影響が出る悪心、嘔吐など。
グレード3以上の重い有害事象は54%で、貧血が最も多かった・・・要注意と思われる。

転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)では、その治療は延命、病勢進行の遅延、症状および生活の質の改善などが中心となり、BRCA1、BRCA2、ATMの体細胞もしくは生殖細胞遺伝子変異を有する患者に対する標的治療は存在しないが、2015年5月、米学術誌「セル」に掲載された研究によると、mCRPC患者の約2割は、オラパリブ(PARP阻害剤)が効く可能性があるという。

前立腺がんに用いられる抗がん剤といえば、タキサン系(ドセタキセル)が中心だが、今後、BRCA変異を有する場合は、乳がん・卵巣がんで使われてきた白金系抗がん剤(シスプラチン)をベースとする化学療法も有効となる可能性が考えられる。

2015年11月4日水曜日

小線源療法(LDR)の長期治療成績

泌尿器腫瘍学会(東京医療センターの齊藤史郎先生)発表より

小線源療法を施した1036例の長期治療成績の解析結果

【生存率     全生存率   疾患特異的生存率
   10年      89.8%       99.5% 
     5年      96.7%       99.8% 

【非再発生存率  低リスク   中リスク   高リスク   全 体
   10年       98.2      87.8       78.6     90.7
     5年       98.9      94.7       86.9     95.4

小線源療法は、ロボット手術が保健収載された2012以降減少傾向が見られたが、2014年よりまた増加に転じている。
小線源療法は、最近は症例数の多い施設と少ない施設が明確に分れてきている。
中間リスクにおいては症状によってシード単独治療と外照射併用とに分かれるが、外照射併用でもホルモン療法は行なっていない。
トリモダリティ(小線源療法+外照射+ホルモン療法)を行うのは高リスクに限られ、その有用性は国内外で示されている。
こうした認識も徐々に広まりつつあるので、今後はさらにトリモダリティの支持が得られるようになるであろう。

リバビリンの併用でドセタキセルの効果が復活か

日本泌尿器科学会(2015) 慶応大学:小坂威雄先生

ホルモン療法の効かなくなったがん(CRPC)に対しては、ドセタキセルを用いることが多いが、それもやがて効果がなくなってきます。
そのような状態のがん細胞では、遺伝子の働きに変化が見られることが多く、その遺伝子変化を打ち消す薬を、3000種の既存薬の中から探したところ、9種類の候補が見つかった。
さらに、マウス実験で候補を絞ってみると、C型肝炎の抗ウイルス薬「リバビリン」が浮上してきた。
ドセタキセルの効かなくなった患者5人に、リバビリンを併用した臨床試験を行ったところ、
PSAの奏功が2人に見られ、うち1人は骨転移が消えた(画像診断による)という。
ドセタキセルにリバビリンを併用することで、抗がん剤が効きにくくなったがんを、再び効くがんに巻き戻す(Re-programing)効果があると思われる。

2015年10月1日木曜日

リュープリンに6ヶ月(24週間)製剤が誕生

ホルモン療法の代表的な薬の一つ、「リュープリン(LH-RHアゴニスト)」には、これまで4週と12週の持続製剤はありましたが、このたび新たに、24週間持続製剤である「リュープリン®PRO注射用キット22.5mg」が、厚労省の承認を取得した。
注射1本で半年間薬効が持続するわけです。病院通いの回数が減るのと併せ、費用もおそらく割安となるはずです。

 武田薬品のプレスリリースはこちらから。
 http://www.takeda.co.jp/news/2015/20150928_7142.html

2015年9月13日日曜日

毎年600万人が死亡(喫煙被害)

世界では、毎年600万人が喫煙により死亡している!
以下の研究は米国がん協会、ハーバード大学医学部、米国国立がん研究所(NCI)、フレッドハッチンソンがん研究センターの研究者らによるもので、科学雑誌JAMA Internal Medicine誌に掲載された。
http://www.nhs.uk/news/2015/06June/Pages/Smoking-causes-half-of-all-deaths-in-12-different-cancers.aspx

研究者らは、2011年米国国民調査を基に喫煙率を調査し、喫煙に起因するがん毎の死亡数の人口寄与割合(PAF:population attributable fraction)を求めた。
PAFを判り易く言えば、タバコが原因の死亡数の割合(喫煙しなかったら助かる人の割合)である。

2011年の、35歳以上の成人における12種のがんによる死亡は345,942人であった。
研究者らは、がんによる死亡全体のうち167,805人すなわち48.5%(95% 信頼区間(CI) 46.2−51.2%) が、喫煙による死亡と推測した。
がんのPAFは、男性では51.5%、女性では44.5%であった。

(PAF) ( がん種)
 80%  肺がん
 75%  喉頭がん
 50%  口腔がん 咽頭がん 食道がん 膀胱がん
 25%  子宮頚がん 肝臓がん
 20%  腎臓がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、血液がん

2015年7月8日水曜日

アビラテロン(ザイティガ)に「重大な副作用」

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の治療薬 アビラテロン(ザイティガ)で、因果関係が否定できない劇症肝炎・肝不全が5例(うち1例は死亡)が確認されたことを受け、厚労省医薬品食品局は2015年7月7日、医療用薬の添付文書の「重大な副作用」に「劇症肝炎、肝不全」を明記するよう日本製薬団体連合会に通知した。
アビラテロンの使用時に、血液検査で通常良く見られる副作用は、AST(GOT)増加、ALT(GPT)増加、低カリウム血症等で、これらの低減のためにもプレドニゾロン(ステロイド)との併用が原則とされている。
従来より添付文書に記載されていた重大な副作用は、心障害、肝機能障害、低カリウム血症、血小板減少、横紋筋融解症など。
肝機能障害については、患者選択基準でも、重度の肝機能障害者には「禁忌」、中程度の肝機能障害者には「慎重投与」とされてきたが、劇症肝炎・肝不全を「重大な副作用」に明記することにより、より一層の注意を喚起するもの。

2015年5月23日土曜日

オラパリブ(PARP阻害薬)

2015/2/15
BRCA1/2遺伝子の突然変異の起きている場合に、新しい経口抗がん剤「オラパリブ」が有効である可能性。
BRCA1およびBRCA2(BRCA1/2)という2つの遺伝子に突然変異が起きている場合は、乳がんや卵巣がんに対するリスクの増大が懸念され、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーが女房を予防切除した話はまだ耳新しいが、この変異は進行前立腺がんにも多く存在し、重要な役割を果たしている可能性があることが判明した。

末期前立腺がん患者150人のDNA解析を行ったところ、がん抑制遺伝子「BRCA1/2」の変異が15%で見られ、これと同意の機能を持つ別の遺伝子の変異も、さらに5%に見られた。
早期の前立腺がん患者に比べて、明らかに多いという。
オラパリブ(ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)阻害剤)は昨年12月、BRCA変異陽性の進行卵巣がんの治療薬として米食品医薬品局(FDA)に承認されている。
BRCA1/2遺伝子の突然変異が関係するがんで再発した人を対象にオラパリブの有効性と安全性について評価したところ、前立腺がんでは8人中4人(5割だが総数が少ない!)に反応が見られた。
前立腺がんには、遺伝子変異においても、乳がん・卵巣がんと類似点があるといえるかも知れない。
(参考)
ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー誌 2015年1月20日
http://www.mededge.jp/a/canc/7858 
ウォールストリートジャーナル
http://jp.wsj.com/articles/SB10690484242962743932404581001033226916552

2015年3月12日木曜日

がん検診は「線虫」で

九大味覚・嗅覚センサ研究開発センターの広津崇亮助教らは、
①健康な人と②がん患者(胃がん、食道がん、前立腺がん、膵臓がんなど)
それぞれの尿に対し、線虫(C.エレガンス)の寄り付きを調査したところ、
①では23匹/24匹(95.8%)で近寄り、②では207匹/218匹(95.0%)で遠ざかった。
これは検査方法としてはかなり優秀であり(初期がんにも反応している)、
がんの種類や進行度の特定は現時点では難しいが、がんか否かの振り分けは可能となる。
さらに精度を高めつつ、臨床試験を経て10年以内に実用化させたいとか。
遺伝子操作で一部の嗅覚を欠落させた線虫は、これに反応しなかったので、
「がん探知犬」の嗅覚と同様、臭いに反応していることが確認された。
実用化されれば、数百円でがんの有無を調べることができるという。
米科学誌「Plos One」電子版 2015/3/11

線虫:土壌中に莫大な数が生息し、体長は約1mmで半透明。
におい分子と結合するたんぱく質が犬とほぼ同数あるという。




2015年3月10日火曜日

「これでいいのか、日本のがん医療」

シカゴ大学内科・外科教授 中村祐輔氏 特別講演
於:東京大学医科学研究所 (2015/2/18)

A:画期的な新薬が生まれにくい土壌
 近年、政府によって「ドラッグ・ラグ解消策」が行われてきたが、
 恩恵を受けたのは海外の製薬企業。 
 国内での創薬を促し、もっと国際競争力を付ける施策に力を入れるべき。

B:「標準治療」という名の「マニュアル療法」
 病気を見て患者を診ない「マニュアル医療」が横行しているが、
 エビデンスの重視とは「標準治療」の枠にとらわれることではない。
 患者によって望む治療や、終末の迎え方が異なるのは当然であり、
 臨機応変により添う姿勢が必要だが、実際はガイドラインに書かれていない段階になると、
 自分の責任は終わったと勘違いする医者が多い。

C:癌免疫療法急進展への対応
 癌免疫療法では、体内で癌細胞を守ろうとする免疫系統を抗体で無力化することが肝要。
 抗体薬による臨床効果は癌細胞での遺伝子変異が多いほど強まり、
 変異の数と治療効果が有意に比例する。
 しかし、効果を適切に見極めるには時間を要する。

D:致命的に遅れた「医療のオーダーメイド化」
 遺伝子変異別の診断や投薬を行うゲノム医療には薬剤の効率利用や副作用回避、
 無駄な医療を省くなど大きなインパクトがある。
 仏国では既に、遺伝子検査を受けなければ特定の治療薬が使えないという施策が採られ、
 米国や韓国では10万円台で遺伝子を解析する機器の導入が相次いでいる。
 日本でも早急にゲノム医療の重要性を意識した国策を進めねばならないが、
 現段階では欧米に比べてはるかに遅れている。

2015年2月18日水曜日

MR/US標的生検(ターゲット・バイオプシー)

標的生検に関する米国国立癌研究所(NCI)の研究者らの発表です。
(JAMA誌:2015年1月28日)


経直腸的超音波のみに頼る従来の生検と、MRIと経直腸的超音波を組合せた標的生検(MR/US標的生検)を比較したところ、MR/US標的生検は、高リスクがんを30%多く検出すると共に、低リスクがんの検出を17%減少させた。(対象者:1,003人)
つまり、従来の生検で見落とされた高リスク前立腺がん患者をより多く特定できると共に、低リスクがんの検出を減らせるので、過剰診断、過剰治療の恐れも軽減できる可能性が示されたと言えよう。

わが国でも、学会等でいくつかの施設から「標的生検(ターゲット・バイオプシー)」に関する発表が行われており、いずれもかなりの精度と良好な結果が示されているようです。

標的生検には、MRIではなくCTを用いるものもあります。
これらをシステムとして医療者に販売している会社も出てきました。
どの医療施設がこれを行っているかを知りたいところですが、全体像はまだ把握できておりません。

以下、海外癌医療情報リファレンスの記事を参照願います。

2015年1月31日土曜日

監視療法

(前立腺がんガイドブックの監視療法の項目を修正しました・・・以下、本文)

低リスクがんの場合、10年生存率は治療を行っても行わなくてもほとんど変わらないと言われています。
つまり、特別な処置をしなくても健康なまま天寿を全うできる可能性が高いので、病態の進行や変化をすばやくキャッチして臨機応変に対処できるだけの体制さえ整っておれば、積極的な治療をせずフォロー(監視)だけで様子を見るというのも賢いやり方かも知れません。
ただ、「がん」という言葉を始めて聞いた人の多くは、体内にがん細胞があるというだけで冷静さを失い、人生最大の危機に巡り合わせたように思って治療を急ぐ傾向があるのですが、積極的な治療にはかならず副作用がついて廻ります。
低リスクの場合には、がんの進行によって命が脅かされるリスクと、積極的治療によって副作用を被るリスクを比較すれば、後者のリスクのほうが明らかに高いと思われる場合も多いので、適切なフォローすなわち”監視療法”という「治療法」が選択肢の一つとして積極的に評価されるようになってきました。

米国ではPSA検診の普及が進み、実に8~9割の人がそれを受けていますが、近年、PSA検査でごく初期の小さながんが見つかる確率が増えてきて、それが過剰検診や過剰治療につながる恐れが顕著になってきて、医療費の抑制も併せて考えると、この際PSAを検査を止めてしまうのが近道であるという考え方がでてきました。
しかし、PSA検診の要否については、検診率が2割にも届かない我国と同列に論じて良いものかどうかははなはだ疑問の残るところですが、少なくとも共通問題として捉えておくべきことは、「低リスク」のがんでは、必ずしもがんを死滅させる積極的治療が第一選択とはかぎらないということで、不要な治療を受けることによって失うものもある。時によってはそれが一生抱えて生きなければならない重大な副作用であるかも知れないわけです。
 ”PSA監視療法”というのは、定期的にPSAの動向を見守ると共に、必要な時には針生検(MRIがこれに代わる時代がまもなく来ると思いますが)も行い、病態の進行を監視するもので、低リスクなら、まずはこの可能性を探ってみるべきでしょう。

NCCNガイドラインでは「超低リスク」という概念を設け、これに相当するなら年齢に関係なく、監視療法が第一選択であると明言しています。
しかし、日本の医療機関では、まだこの監視療法をあまり患者には詳しく説明しない所も多くあり、患者が監視療法という選択肢をしらないまま、なんらかの処置を望んだ場合(患者に余程の予備知識がない限り、そう思う方が自然です)安易に手術や放射線治療を勧めたり、内分泌療法を行うケースも多いと思われます。
「初期のがんですから、切ったらすぐ治ります。」などと言いながら手術を勧められ、性機能不全や排尿障害の後遺症に悩むというのは、過剰治療の最たるものですが、一生続く場合もある日常の不幸にじっと堪え、それでも恨み辛みを言うわけでもなく、命が助かった代償なので仕方がないと思って諦めて、手術をしてくれた医者に感謝するという、なんとも複雑で哀しい現実があるわけです。
「がんより怖いがん医療」(近藤誠)というのは、中身はともかく、おそらくこのようなことを言いたいのでしょうね。

積極的な治療には、多かれ少なかれ二次的な障害(副作用)を被る危険性があるわけですが、目の前に「がん」という言葉を付きつけられれば、たいていの患者は動揺し、治療後長く続くかもしれない副作用の重大性になかなか気付かないケースが多いわけです。
期待余命の長さが10年以内(概ね75歳以上)なら「中リスク」でもこの監視療法が成立します。
期待余命が5年以内と目される高齢患者はもちろんのこと、他に重い病を抱えているような人は、もっと積極的に監視療法を選択肢に加えても良いのではないでしょうか。
恐れるべきがんであれば、早期にしかるべき治療を受ける必要があるのはもちろんですが、ほとんど恐れる必要のないがんを恐れるあまり、自分自身に一生取り返しのつかない傷をつけてしまうこともあるわけです。

「動かざること山の如し」・・・ ” 何もしないという勇気 ” を持つということも、時には必要なことかも知れません。

2015年1月27日火曜日

双極性アンドロゲン療法(bipolar androgen therapy)

 「Science Translational Medicine」2015年1月7日号

前立腺がん細胞にとってアンドロゲン(男性ホルモン)というのはいわば「餌」。
その「餌」を奪って前立腺がん細胞を弱らせるというのがホルモン量の定番だが、それを続けているとやがてCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)となり、アンドロゲンがほとんどなくても生きていけるしぶといがん細胞に変質する。

しかし、CRPC患者に常識では禁避ともいえるテストステロン(アンドロゲンの95%は精巣で作られるテストステロン)を与えるという大胆な臨床試験を行ったグループが居た。
ワシントン大学のMichael Schweizer氏、ジョンズ・ホプキンス大学のSamuel Denmeade氏らのグループで、去勢抵抗性に陥った前立腺がん細胞に高いテストステロンを浴びせかけるというショック療法で一発逆転を狙うもの。
小規模な臨床試験ではあるが、実に驚くべき発想であり、コロンブスの卵を彷彿させる。

その結果、テストステロン値を急激に上下させると、ホルモン療法に対する前立腺がんの反応性を取り戻せる可能性が示唆された。
さらに、被験者の男性にとっては、テストステロン値の回復により、ホルモン療法によるさまざまな副作用が軽減し、あきらめていたセックスが可能になったという喜びの声もあったとか。
テストステロンの過剰供給と枯渇を繰り返すこの治療法は
双極性アンドロゲン療法と名付けられた。
ワシントン大のMichael Schweizer氏は、CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)患者の新たな治療法につながる可能性があると述べている。

被験者は、痛みなどの症状の伴わないCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)患者16人で平均4年間標準的なホルモン療法を受けていた。
化学的(薬物)去勢を行いながら4週ごとにテストステロンを投与するという双極性アンドロゲン療法を実施した。テストステロン値は標準範囲を超えて上昇、その後徐々に低下し化学的去勢レベルまで下がることを繰りかえす。
その結果、7人は寛解、4人は腫瘍が縮小、1人は腫瘍が消失したという。
全体的に見れば、約半数の患者にPSAの低下とがんの縮小が認められた。

前立腺がん細胞には、元々アンドロゲンに対する依存性が高いものと低いものが混在しているが、通常のホルモン療法(アンドロゲン枯渇)を継続すると、徐々に依存性が高いがん細胞死滅し、依存性が低いものが増えて行く。
CRPCというのは、時間の経過と共に大部分の前立腺がん細胞が依存性が低いものに置き換わった状態であり、低レベルのテストステロン環境に馴染んだ前立腺がん細胞にとっては、その環境がぬるま湯のように思えていたのに、テストステロンの急激な増加という熱湯(冷水?)を浴びせられると、驚いて死滅することがあるらしい。
また、僅かに生き残っていたテストステロン環境を必要とする前立腺がん細胞は、それで一旦喜びほっとするものの、テストステロンがまた下がってくると、環境の変化についていけなくなり死滅することもあるらしい?!
興味ある報告だが「敵」もさるもの、そのような環境変化のパターンを学習するのか、結局7ヶ月後ぐらいにPSAは再び上昇を始め、新たな腫瘍の増殖が確認されたという。

双極性アンドロゲン療法は初期治療には適さず、長期的な効果もまだ判っていない。
テストステロン値の変動によりがんが増殖して死期が早まる可能性を指摘する専門医も多いので、現時点ではかなり危険な挑戦であることは間違いなさそうだ。
より大規模な試験で、この治療法の効果を確認し、安全に適応できる患者を識別する必要もあり、臨床への応用までには、まだしばらく時間が必要だろう。